2025年7月9日、欧州化学物質庁(ECHA)のリスク評価委員会(RAC)は、タルクをEUの分類、表示および包装(CLP)規則の下でカテゴリー1B発がん性物質(「人に対して発がん性があると推定される」)に分類することを推奨する最終意見を発表しました。さらに、タルクは主に肺に影響を及ぼす特定標的臓器毒性-反復暴露(STOT RE)カテゴリー1物質として分類されることが提案されています。
I. 背景
タルク(化学式:Mg₃H₂(SiO₃)₄)は、化粧品、医薬品、食品、工業用途で広く使用されている天然鉱物です。その潜在的な発がん性をめぐる論争は数十年にわたり続いています。米国、カナダ、韓国などの国々は、以前にタルク含有ベビーパウダーに関する安全警告や法的判決を出しています。現在、EU内では分類が一貫しておらず、一部の企業はタルクを有害物質として分類していない一方で、他は発がん性物質として表示しています。
II. 主要結論
1. 発がん性
- 動物実験: 1993年の国立毒性プログラム(NTP)によるラットの長期吸入試験で、雌ラットに肺腺腫および腺癌が確認されました。
- 疫学データ(ヒト): 30件以上の症例対照研究および3件のメタアナリシスで、タルク製品の会陰部使用が卵巣がんリスクを20~30%増加させることが一貫して示されており、回想バイアスや過去のアスベスト汚染などの交絡因子が存在します。
- 機序的支持: タルクは慢性炎症および酸化ストレスを誘発し、発がん経路と一致しています。
2. 特定標的臓器毒性-反復暴露(STOT RE)
- ヒトデータ: 鉱山労働者や製粉労働者の長期タルク吸入は、じん肺症、肺機能低下、肺線維症と関連しています。
- 動物実験:ラットの長期吸入で肉芽腫性炎症、肺線維症、肺機能低下が認められました。
III. 今後の展開
RACは方法論的制約があるものの、動物発がん性試験の確固たる証拠、卵巣がんリスクに関する十分なヒトデータ、および明確な肺毒性データに基づき、統一的な分類として Carc. 1B (H350) + STOT RE 1 (H372、吸入、肺)を推奨しました。この意見は欧州委員会およびEU加盟国に提出され、最終決定は2026年初頭までに期待されています。採択された場合、EUで販売されるすべてのタルク含有製品は18ヶ月以内に表示を更新する必要があります。
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